中高年の男性を悩ませる、「おしっこ」のトラブルの大半は前立腺肥大症によるものです。排尿機能障害が重症で多量の残尿が残る様になると腎不全となり生命を脅かすことになります。しかしこれは稀で、ほとんどが毎日付き合う排尿を不愉快なものにして生活の質を損なうという病気です。
映画やコンサートは途中のトイレが嫌なので行かないとか、バス旅行や長時間の車の運転は避けるなど行動を制限しがちになります。良く効きますので、まず薬物療法を試されたら良いのでは無いかと考えます。スポーツ観戦、観劇や旅行を楽しんで下さい。
薬物療法
治療は薬物療法と手術療法です。それまでは植物製剤や漢方薬が使われていましたが、明らかに効果が優れたハルナール(α1遮断薬)という薬が1993年7月に日本で発売されました。日本で発明された薬です。現在はジェネリック医薬品がありタムスロシンという製品名で処方されている場合が多いと思います。その後も同じ仲間の薬が2種類、その他に前立腺を小さくすることで効果を発揮する薬アボルブ(5α還元酵素阻害薬)、前立腺と膀胱頚部の平滑筋やさらに周囲の血管の平滑筋の緊張を抑制することで効果を発揮する薬ザルティア(PDE5阻害薬)が使用出来るようになりました。これらの薬を1種類、または2-3種類組み合わせることにより不愉快な排尿症状を著明に改善することが出来るようになり、手術が必要な患者さんの割合が大きく減りました。
手術療法
しかし、手術療法が必要な場合があります。薬による治療でも多量の残尿が残る場合、自覚症状が改善しない患者さんや、高血圧やコレステロールの薬のような長期間の服薬を望まれない場合等です。
ずいぶん以前には開腹手術が行われた時期もありましたが、皮膚を切開しない内視鏡手術が早くから泌尿器科領域で行われるようになり、その代表的な手術が経尿道的前立腺切除術(TUR-P)で現在も広く行われています。その後、侵襲の低い手術として様々な術式が考案されましたが、ほとんどが余り行われることが無くなり、現在ではホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)とレーザー前立腺肥蒸散術(PVP)の3つの術式が選ばれています。2022年に経尿道的水蒸気治療(WAVE)と経尿道的前立腺 吊り上げ術(PUL)が保険適応となりました。この2つの術式に対しては2022年に日本泌尿器科学会が適正使用指針を発表し、適応とされるのは「全身状態 や手術侵襲を考慮して、従来の手術療法(TURP、HoLEP、PVP など)が以 下のように困難な症例として、 全身状態不良のため合併症リスクが高い症例 高齢もしくは認知機能障害のため術後せん妄、身体機能低下のリスクが 高い症例など」を示しています。
現在の標準的な術式はTURP、HoLEP、PVPとお考えください。
この後に前立腺肥大症と排尿について解説していきます。